
2026年7月3日から6日まで、台北で「TAIPEI PETS SHOW」というペットの見本市が開かれました。台湾最大規模で、昨年は延べ17万6,000人が来場しています。
そこにJETROが、日本産ペットフードのジャパンパビリオンを初めて出しました。ペットフード事業者だけに特化した出展は、JETROとして初めてです。
参加したのは14社と1団体、10の都道府県から。大手だけではありません。熊本県八代市、宮崎県西臼杵郡、広島県尾道市、北海道札幌市。地方の中小メーカーが並んでいます。
なぜ今、台湾なのか。理由をたどると、日本のメーカーにとって少し考えさせられる話が出てきます。
01台湾で、猫が犬を追い越した
2026年4月、台湾の農業部が2年に一度の飼育頭数調査を発表しました。
犬は146万2,528匹で、2年前より1.2%の微減。猫は174万2,033匹で、2年前の131万匹から32.8%増。43万匹増えています。
そして統計を取り始めて以来はじめて、猫の数が犬を追い越しました。
犬猫あわせて320万匹超。2年前の279万匹から大きく増えています。
農業部の担当者は理由をこう説明しています。社会構造が変わり、単身者が増えた。特に都市部は住宅が狭く、犬より猫のほうが飼いやすい。しかも一匹では終わらず、複数飼う人が多い。
日本でも聞き覚えのある話です。違うのは、台湾ではそれが今まさに数字として動いている、という点です。
02台湾は、作る国ではなく買う国
ここからが本題です。
台湾のペットフードは、輸入がとても多い。
台湾の食品工業発展研究所の分析によれば、2024年の輸入量は7万7,000トン。2016年の6万5,000トンから増え続けています。一方、台湾からの輸出はわずか2,860トンです。
理由は業者の構成を見ると分かります。台湾で登記されているペットフード関連業者は2万1,021社(2025年5月)。ところが、そのうち製造業者はたった1,793社。しかも6割以上は資本金500万台湾ドル未満の小さな会社です。
台湾のペットフード業は、作る産業ではなく、売る産業なのです。
成長している市場で、海外ブランドを受け入れる構造がすでにできあがっている。 ここが、日本のメーカーにとって意味のある部分です。
03ただし、上位5カ国に日本はいない
同じ資料に、2024年の輸入元の上位5カ国が出ています。
タイ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス。
タイひとつで3万6,000トン超。輸入全体の半分近くを占めます。
日本の名前は、ここにありません。
日本産ペットフードの台湾向け輸出額は約30億円。おやつやレトルトが中心です。
つまり、台湾は日本から買っていないわけではない。ただし、買っているのは「ときどきあげるもの」であって、「毎日食べるもの」ではなかった。
04主食に、入れなかった
理由がありました。
消費量が最も多いのは主食のドライフードですが、牛由来の成分を含む商品は、台湾の規制で入れなかったのです。
その輸入条件が緩和されました。JETROはこれを受けて、台湾市場でまだ流通していない日本産ドライフードの輸出実現を目指すとしています。牛成分を含むドライフードが定着すれば継続的な需要が見込め、輸出額の倍増が期待できる、とも書いています。
おやつは、気に入られれば買ってもらえます。主食は、気に入られたら毎月買ってもらえます。
同じ「輸出」でも、意味がまったく違います。
05一方、日本では何が起きているか
日本のペットフード協会の調査によると、2024年度の出荷総額は約4,594億円。前年度比105.6%で、9年連続の増加です。
ところが出荷量は56万7,724トンで、前年度比99.0%。3年連続の減少です。
金額は増え、量は減っている。協会は理由を、付加価値の高い商品開発と値上げによるものだと説明しています。
つまり日本のペットフード市場は、たくさん売る市場から、良いものを高く売る市場へ変わりつつあります。ちなみに猫用の出荷額は前年度比107.1%で、犬用の104.0%を上回っています。猫が伸びているのは、台湾だけの話ではありません。
そしてここが大事なところですが、台湾市場は日本より小さい。JETROが引用する予測で、2025年は10億9,000万米ドル、日本円でおよそ1,600億円。2031年に15億6,000万米ドルに達すると見込まれています。
日本の3分の1ほどの規模です。「巨大市場」ではありません。
違うのは大きさではなく、成長の段階です。
06市場は開いた。でも、入口にはドアマンがいる
規制が緩和されたからといって、明日から出せるわけではありません。
日本からペットフードを輸出する場合、動物性原料を含むなら動物検疫所で検疫を受け、証明書を取得して、台湾の農業部動植物防疫検疫署に提出する必要があります。台湾は残留農薬についてポジティブリスト制を採っており、基準にない農薬が検出されてはいけません。病原微生物や有害物質にも安全許容基準があります。
しかも台湾は、ペットフードの管理を強化する方向に進んでいます。2026年1月からは猫の登録も義務化されました。
準備なしで入れる市場ではない、ということです。
07本当の問いは、たぶんここ
ここまでが、公開資料で確認できる事実です。ここから先は、私たちの見方になります。
輸入品が主体の市場だということは、裏を返せば、世界中のブランドと競争する市場だということです。
タイ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランス。すでにそこにいる相手は、安さでも品質でも実績があります。プレミアム市場には強いブランドが並んでいます。
だから本当の問いは、「台湾で日本のペットフードは売れるか」ではないと思います。
台湾の飼い主は、「日本製だから」買うのか。それとも、日本製であっても、はっきりした理由と価格が必要なのか。
JETROは、台湾ではナチュラル原料やアレルギー対応など品質や機能性を重視した製品への需要が高まっており、日本産の安心・安全、高品質、機能性を活かせる有望市場だとしています。それは十分にありうる見立てです。ただし、現時点ではまだ見立てです。
08WORLD100なら、ここで何を確かめるか
こういうとき、私たちなら台湾の飼い主に直接聞きます。
- いま、どの国のフードを買っているか
- 選ぶときの最大の理由は何か(価格、原材料、獣医の勧め、口コミ、ブランド)
- 日本製にどんな印象を持っているか
- 同じ品質なら、日本製に何%まで多く払うか
- 猫や犬の健康で、いま一番困っていることは何か
- ドライ、ウェット、おやつ、どこに一番お金を使っているか
- どこで買っているか(ペット専門店、動物病院、EC)
- 新しいブランドを、何で知るか
聞く相手は飼い主だけではありません。仕入れる側にも聞くことがあります。なぜ、日本製をまだ扱っていないのか。 扱うとしたら、価格と条件はどうあるべきか。
市場レポートを読むのと、100人に聞くのとでは、分かることが違います。レポートは「市場が伸びている」ことを教えてくれますが、「あなたの商品が選ばれる理由があるか」は教えてくれません。
09最後に
日本のペットフードが台湾で売れる、と結論づけるにはまだ早いと思います。
ただ、猫174万匹。増え続ける飼育頭数。輸入が主体の市場構造。高まる健康・機能性への関心。そして、主食であるドライフードの輸入条件緩和。
「台湾で売れるかどうかを調べてみる理由」は、十分にそろっています。
そしてこれは、ペットフードだけの話ではありません。
日本では成熟しきったように見える商品でも、国境をひとつ越えれば、市場がまだ成長の途中にあることがあります。日本で伸び悩んでいるのは、商品が古いからではなく、市場が先に成熟しただけかもしれません。
日本のこの商品、あの国ならどうだろう。
その問いを、100人の声から確かめていきます。
What we took from this
日本で伸び悩むのは、商品が古いからではなく、市場が先に成熟しただけかもしれない。
見るべきは市場の大きさではなく、成長の段階。
売れるかどうかは、100人に聞いてから決めればいい。
データについて
台湾のペットフード市場規模、および日本産ペットフードへの需要見通しは、JETROが公表した見立てに基づくものです。輸入量・輸出量は台湾財政部の関税統計を食品工業発展研究所が分析したもので、金額ベースの市場シェアとは異なります。日本の数字はペットフード協会会員企業を対象とした調査による出荷実績であり、市場全体の規模とは一致しません。台湾市場についての読み解きはWORLD100によるものです。
出典
- ・JETRO初出展・参加企業14社1団体・台湾市場予測(2025年10億9,000万米ドル→2031年15億6,000万米ドル)
- ・日本産ペットフードの対台湾輸出額約30億円
- ・牛成分を含むドライフードの輸入条件緩和|日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本産ペットフード、規制緩和の台湾市場に挑戦」2026年6月17日|https://www.jetro.go.jp/news/releases/2026/a1ef71a941bbc571.html 台湾の犬猫飼育頭数(家犬146万2,528匹/家猫174万2,033匹
- ・32.8%増・猫が犬を初めて上回る)|台湾農業部「全國家犬貓飼養數量最新推估結果」2026年4月20日発表|https://www.moa.gov.tw/theme_data.php?theme=news&sub_theme=agri&id=10118 台湾のペットフード輸入量7.7万トン
- ・輸入元上位5カ国・輸出量2,860トン
- ・業者数21,021社/製造業者1,793社|財団法人食品工業発展研究所(FIRDI)「寵物食品產業情報站」|https://foodvision.firdi.org.tw/petfood/datachart 日本の出荷総額4,594億円(9年連続増)・出荷量56万7,724トン(3年連続減)・猫用出荷額の伸び|一般社団法人ペットフード協会「2024年度ペットフード産業実態調査」2025年9月|https://petfood.or.jp/pdf/data/2024/data.pdf 台湾向けペットフードの検疫・残留農薬・有害物質基準|ジェトロ「ペットフードの輸入規制、輸入手続き(台湾)」|https://www.jetro.go.jp/world/asia/tw/foods/exportguide/petfood.html
世界に、聞いてみる。