WORLD CASES 連載|日本の商品、あの国なら。#002

美顔器が600万台売れた。でも、成長の主役は美顔器ではなかった

韓国APRの決算から見える、「売ったあと」の設計

2026.09.086 min readText · WORLD100

2026年1月、韓国の美容企業APRが、家庭用美容機器ブランド「メディキューブ AGE-R」の世界累計販売台数が600万台を超えたと発表しました。
2025年9月に500万台を超えてから、およそ4か月で100万台。累計のうち6割以上が韓国以外での販売です。
数万円する機械が、600万台。
ただ、この会社の決算を読むと、もっと意外なことが分かります。

600万台AGE-R世界累計販売台数(6割超が海外)
185.5%化粧品部門の伸び(2026年Q2・前年同期比)
92%海外売上比率(2024年は55%)
27%デバイス部門の売上比率(前年は44%)

01伸びているのは、美顔器ではない

APRの2025年の売上は1兆5,300億ウォン。前年比111%増、営業利益率24%。11年連続の成長です。

その内訳を見ると、こうなっています。

ビューティーデバイス部門:4,070億ウォン。全体の約27%。

2024年、この比率は44%でした。1年で17ポイント下がっています。

デバイスが落ち込んだわけではありません。4,070億ウォンは立派な事業です。下がったのは比率であって、化粧品が桁違いに伸びた結果です。同社の化粧品部門の年間売上は、2025年に初めて1兆ウォンを超えました。

2026年に入ると、差はさらに開きます。第2四半期、化粧品部門の売上は6,483億ウォンで前年同期比185.5%増。全社売上7,675億ウォンのうち、化粧品が8割以上を占めました。

美顔器が600万台売れた会社の、いま一番伸びている商品は、美顔器ではありません。

02機械は、入口として設計されている

APRのデバイスには、EMS(中周波)、RF(高周波)、HIFU(集束超音波)、エレクトロポレーションといった技術が使われています。目的や肌の悩みごとに選べるよう、製品を何種類も並べています。

ここまでは「高機能な美容家電」の話です。

違うのはこの先で、同社はこれらの機器を、自社のスキンケア化粧品と併用する構造として設計しています。機械を使い、そのあとに美容液やパッドやクリームを使う。企業自身が、機器と併用することで相乗効果が高まる化粧品を継続して出していると説明しています。

普通の家電なら、10万円の機械を1台売って終わりです。

ここでは、機械を買った顧客が、そのあとも化粧品を買い続けられる導線が用意されています。

600万台という数字が意味しているのは、単発の家電販売の合計だけではありません。その先に、家庭の美容習慣を取りにいくための顧客接点が、600万台分生まれたということです。

なお、600万台は台数であって人数ではありません。同じ人が複数台買っている可能性もあります。

03化粧品と、美容クリニックのあいだ

これまで、家庭の美容といえば「洗う、保湿する、塗る」でした。もっと踏み込むなら、美容クリニックに通うことになります。

その二つの間に、新しい消費の場所ができました。

ここで大事な但し書きがあります。家庭用の機器は、クリニックの施術と同じものではありません。 出力も、安全基準も、そもそもの目的も違います。同等に扱うべきではありませんし、この記事も効果を保証するものではありません。

それでも、消費者が何にお金を払っているかを考えると、こうなります。

クリニックには、予約があり、移動があり、待ち時間があり、費用があります。そして、行かない日にその施術を受けることはできません。

家庭用機器が入り込んだのは、その「行かない日」のほうです。

だとすると、この市場が競争している相手は、他社の美顔器だけではないのかもしれません。

04韓国だけの話ではなくなった

もうひとつ、見落とせない変化があります。

APRの海外売上比率は、2024年の55%から2025年に80%へ、2026年第2四半期には92%まで上がりました。

内訳を見ると、2026年第2四半期の北米売上は前年同期比264.6%増。TargetやWalmartといった大型小売への展開が進み、下半期にはCostcoへの参入も予定されています。欧州は380.3%増で、この四半期から独立した報告区分になりました。英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン。

一方、アジアの伸びは14.5%です。

「韓国人が美容好きだから成立した特殊な市場」ではなかった、ということです。韓国で組み立てられた売り方の型が、アメリカとヨーロッパに移植されています。

05APRで、何が起きたのか

日本にも長い美容家電の産業があります。パナソニック、ヤーマン、ReFa。RFやEMS、LEDを使った家庭用機器はとうに手がけていますし、機器と併用するジェルや美容液を出している会社もあります。「日本は機械しか売っていない」という話ではありません。

ここからは、私たちの見方です。

では、APRの何が違ったのか。決算から読み取れる範囲で言えば、こうなります。

デバイスで大規模な顧客接点を先に作り、そのあと化粧品の売上が、デバイスを大きく上回るところまで事業構成そのものが変わった。

2年で、デバイス44%の会社が、化粧品8割の会社になりました。この速度と比重の変化が、他社と比べたときのAPRの特徴だと思います。

機械を売ることが目的ではなく、機械を売ったあとに何が起きるかが先に設計されていた。そう読むと、この数字の動きは筋が通ります。

06WORLD100なら、ここで何を確かめるか

ただし、ここまでは全部「会社側の数字」です。

決算が証明しているのは、デバイスと化粧品の両方が伸び、いま化粧品の比重が大きいということまで。AGE-Rを買った人が、そのあとメディキューブの化粧品を買い続けているかどうかは、公開資料からは分かりません。

分からないのは、買った人がその後どうしたかだからです。

だから私たちなら、こう聞きます。

  • なぜ買ったのか(誰かの勧め、SNS、価格、悩み)
  • 買ったあと、何週間使い続けているか。やめた人はいつやめたか
  • 一緒に使う化粧品を、同じブランドで買っているか
  • 美容クリニックに行く頻度は、変わったか
  • 家での美容に、年間いくらまで払えるか
  • クリニックと家庭用機器を、どう使い分けているか

3番目が、この記事の仮説を確かめる質問です。ここが取れて初めて、機械が本当に入口として機能しているのかが見えます。

「売れています」は決算で分かります。「買った人が、半年後も同じブランドを買っているか」は、聞かないと分かりません。

07最後に

美容医療が家庭に降りてきたわけではありません。

ただ、その間にあった距離は、確実に短くなっています。化粧品を塗るだけでもなく、クリニックに行くわけでもない。その中間にできた習慣を、韓国の企業が一つの市場にしました。

そして、この事例が日本の会社に示しているのは、たぶん技術の話ではありません。

自社の商品を買ったあと、その人は次に何を買うのか。

そこまで設計されているかどうか。600万台という数字よりも、そちらのほうが持ち帰る価値があるように思います。

#Beauty#GlobalExpansion#Korea

What we took from this

機械を売ることが目的ではなく、売ったあとに何が起きるかが先に設計されていた。
「売れている」は決算で分かるが、買った人が半年後も同じブランドを選んでいるかは、聞かないと分からない。
自社の商品を買ったあと、その人は次に何を買うのか——そこまで設計されているかどうか。

データについて

APRの業績数値は同社が公表した連結ベースの決算発表に基づきます。2026年第2四半期のセグメント別内訳のうち、デバイス部門の個別数値は本記事で参照した発表資料に記載がありません。累計販売台数は同社の自社発表であり、台数であって購入者数ではありません。デバイス購入者による化粧品の継続購入については公開資料で確認できないため、本記事では事業構造上の導線として記述しています。家庭用美容機器は医療機器ではなく、美容医療の施術と同等の効果を示すものではありません。市場についての読み解きはWORLD100によるものです。

出典

  • ・2025年通年業績(売上1兆5,300億ウォン・営業利益率24%
  • ・11年連続成長・デバイス部門4,070億ウォン・化粧品部門年間1兆ウォン超・海外比率55%→80%)|APR Co., Ltd.「APR RECORDS ANNUAL REVENUE OF KRW 1.53 TRILLION」2026年2月4日|https://www.prnewswire.com/news-releases/apr-records-annual-revenue-of-krw-1-53-trillion-usd-1-05-billion-with-24-operating-margin-in-2025--302678380.html 2026年第2四半期業績(売上7,675億ウォン・化粧品部門6,483億ウォン+185.5%
  • ・海外比率92%・北米+264.6%・欧州+380.3%・アジア+14.5%・Costco参入予定)|APR Co., Ltd.「APR Reports Record H1 2026 Revenue」2026年8月5日|https://www.prnewswire.com/news-releases/apr-reports-record-h1-2026-revenue-posts-highest-ever-quarterly-results-302843195.html 累計販売600万台(2026年1月時点)
  • ・海外比率60%超・搭載技術・化粧品との併用構造|APR発表(2026年1月22日)を報じた韓国メディア各紙|https://www.beautynury.com/news/view/110493/cat/10 2024年のデバイス部門比率44%|APR IR資料|https://apr-in.aprd.io/

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