
連載「『欲しい』と『事業になる』の間」#001
需要はあった。足りなかったのは「売り場」だった
01ホクトの米国きのこ事業
アメリカのスーパーで、ぶなしめじを探す。 見つからない。
今回は、そういう話です。
0220年、現地でつくって売ってきた会社
ホクトは、きのこの会社です。アメリカの子会社をカリフォルニア州サンマルコスに設立したのが2006年。現地で生産して、現地で売る。2026年3月の時点で、そこで働く人は156人。
つまり、これから海外に出ていく会社の話ではありません。すでに約20年、アメリカで商売をしてきた会社の話です。
そのホクトが、2026年8月に公表した決算説明資料に、現地の消費者に聞いた調査の結果を載せました。
03「もっと食べたい」61%、「でも売っていない」70%
ぶなしめじなどを、これから増やして食べたいか。そう聞かれて「増やしたい」と答えた人は、全体で61%。世帯年収が高く、きのこをよく食べる層では81%でした。
では、増やすとしたら何が引っかかるか。全体の70%が「スーパーに置いていない」を選んでいます。
食べたい人はいる。でも、店にない。
ホクトはこの結果を、消費者の意向に対して買う機会が足りていないことを示すものとして説明しています。
04「知らなかった」のではなく、「数字になった」
ここは、少し丁寧に見ておきたいところです。
ホクトは、この調査ではじめてアメリカ市場を知ったわけではありません。2025年5月に公表した経営計画の中で、すでに「主要なスーパーへの浸透が足りない」「工場の生産能力が足りない」と課題を挙げていました。アメリカ第2工場の用地取得を決めたのも2026年1月で、調査の数字が世に出るより前のことです。
だから、「調査をしたから工場を建てた」という順番ではありません。長年の商売のなかで感じていたことを、あとから消費者の言葉と数字で確かめて、外に説明した。そう読むのが正確だと思います。
現場の実感が先にあって、調査があとから輪郭をつける。これは、小さな商いでもよくある順番です。
05それでも、足元の商売は苦しい
ここからが、この事例のいちばん大事なところかもしれません。
2027年3月期の第1四半期、ホクトのアメリカ事業は売上高が前年同期比14.2%減。前の年は黒字だった営業損益が、25万ドルの赤字になりました。理由として挙げられているのは、大口の取引先向けの入札がうまくいかなかったこと、販売が縮んだこと、売る値段が下がったことです。
食べたい人はいる。店にないという不満もある。品質も評価されている。高価格帯のスーパーとの取引もある。
それでも、赤字になる。
「欲しい」と答えてもらうことと、商売が成り立つことのあいだには、まだいくつも段があります。小売の担当者と話がつくか。いくらで納められるか。棚を取れるか。取ったあと、その棚を維持できるか。実際に売れて回るか。運賃と廃棄はどれくらいか。手元に残る利益はあるか。
06私たちがこの事例から受け取ったこと
需要がないから売れない、とは限りません。届いていないから売れていない、ということがあります。
同時に、届けさえすれば売れる、とも限りません。
だから、海外の市場を調べるときに聞くべきことは、「欲しいですか」だけではないのだと思います。誰が、どこで、いくらなら、どんな形なら、続けて買ってくれるのか。そこまで聞いて、はじめて次の一手が決められる。
ホクトのアメリカ事業は、まだ途中です。第2工場は2029年3月期中の生産開始を目指す段階で、結果はこれから出ます。
成功例としてではなく、進行中の実例として、この連載の1本目に置きました。
What we took from this
需要がないから売れない、とは限らない。
届いていないから、売れていないことがある。
そして、届けさえすれば売れる、とも限らない。
データについて
調査データについて:本記事で紹介した消費者調査は、ホクト株式会社が決算説明資料で公表したものです。公開資料からは回答者数や調査方法の詳細を確認できないため、この数値をアメリカの消費者全体に当てはめることはできません。業績・投資に関する記述は同社の公表資料に基づくもので、市場の読み解きはWORLD100によるものです。
出典
- ホクト株式会社 公表資料(2025年5月 中期経営計画
- 2026年1月 土地取得に関するお知らせ、2026年5月・8月 決算説明資料)
- 同社ウェブサイト
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